見やすく! 参考人の意見の開陳 
 耐震強度偽装問題 審議 内容 を見やすくしてみました   home
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    164-衆-国土交通委員会-20号 平成18年05月16 
      参考人
   
(東京大学大学院工学系研究科教授)          久保 哲夫 
   (社団法人日本建築士会連合会会長)          宮本 忠長 
   (社団法人日本建築家協会会長)             小倉 善明 
   (弁護士)                            日置 雅晴 
 午後の部 
  (慶應義塾大学理工学部教授)              村上 周三 
   (東京大学生産技術研究所教授)             野城 智也 
   (東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)    神田  順 
   (社団法人日本建築構造技術者協会会長)       大越 俊男 


     
林委員長 これより会議を開きます。 内閣提出、建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案及び長妻昭君外四名提出、居住者・利用者等の立場に立った建築物の安全性の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。 本日は、両案審査のため、午前の参考人として、東京大学大学院工学系研究科教授久保哲夫君、社団法人日本建築士会連合会会長宮本忠長君、社団法人日本建築家協会会長小倉善明君及び弁護士日置雅晴君、以上四名の方々に御出席をいただいております。 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。本案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。 次に、議事の順序について申し上げます。 まず、久保参考人、宮本参考人、小倉参考人、日置参考人の順で、それぞれ10分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。 なお、念のため参考人の方々に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。 また、参考人は委員に対し質疑をすることができないこととなっておりますので、あらかじめ御了承願います。 なお、参考人及び質疑者におかれましては、御発言の際は着席のままで結構でございます。 それでは、まず久保参考人にお願いいたします。


        参考人   久保 哲夫 さんの意見  

久保参考人 東京大学大学院工学系研究科教授の久保でございます。 私は、教育研究機関である大学において建築学分野に属する教員として、建築構造、その中でも耐震構造を課題として教育と研究に携わってきております。 私は、社会資本整備審議会建築分科会の委員を務めており、今回の偽装事件を受け、建築分科会内に設けられた基本制度部会において、建築確認検査制度の今後のあり方等について、その議論に参画してまいりました。  本日は、建築構造、耐震構造を専門とする立場と社会資本整備審議会建築分科会委員としての立場から、その二つの面より、社会資本整備審議会建築分科会の中間報告及びこのたびの建築物の安全性の確保を図るための 建築基準法等の一部を改正する法律案に対して意見を述べさせていただきます。 今回の意見陳述に当たり、まず、二つの点について私の見解を先に述べさせていただきたいと思います。

 第一の点は、構造設計と構造計算と言われる行為についての私のとらえ方でございます。 設計計算違いとして、構造設計の行為とは、これからつくる建築物を計算ができるようにモデル化し、設定される外力に対して、いわゆる構造計算というものを行いまして、計算によって求められる応力等の結果に対して、柱、壁、はりといったような建築物を構成する部材の断面を決めていく行為であるととらえております。

 ちょっとおわかりにくい点があるかもしれませんが、設計行為には、新しい建築物をつくる創造的もしくは創作的な面が強く計算の行為は、どちらかというと、ある決められたルールに従って数値を計算するといった行為の面が強いというふうに私はとらえております。

 第二の点は、今回のいわゆる偽装問題に対する認識であります。 今回の偽装の問題には、この構造計算と構造設計における偽装二つの面があるのではと思っております。電算プログラムによる構造計算図書の中の数値を別の値に書きかえたりといった、そういったようないわゆる改ざん行為がありますし、また、二つの設計図書を組み合わせるような偽装の行為がありました。

また、もう一つの行為として、いわゆる建築物に設けられる耐震壁のモデル化等を不適切に行った偽装と思われる行為があったと思えます。つまり、今回の偽装問題には、構造計算の偽装構造設計の偽装の二つの面があったものととらえることができると私は考えております。


 続きまして、建築構造を専門とする立場と社会資本整備審議会建築分科会の委員としての立場から、今回問題についての建築分科会の中間報告及びこのたびの改正法律案に対して意見を述べさせていただきます。

 社会資本整備審議会建築分科会の中間報告では、建築物の安全性確保のために早急に講ずべき施策として、幾つかの点を中間報告として提案してあります。私からは、大きく、次の三点について述べさせていただきます。

 第一番目の点は、一定高さ、一定規模以上の建築物については、第三者機関における構造計算の適合性の審査を義務づけることとしております。つまり、第三者によるピアレビューというものを行うことを義務づけることとしております。

 この場合、大臣認定によるプログラムを用いた構造計算については、建築確認申請時に入力データを添付させ、第三者機関において、構造の専門家等により入力方法などを審査の上、再入力による計算過程の審査を行い、計算過程におけるミスだとか偽装の有無についてのチェックを行うこととしております。大臣認定によるプログラムを用いない建築物については、構造専門家等による計算方法、計算過程の審査を行うとする点でございます。

 第二番目の点は、構造計算プログラムの見直しでございます。 構造計算プログラムについては、プログラムの内容が適切なものであること、建築基準法令の規定に適合しない数値を入力できなくするようなこと、計算途中での改ざんや計算結果の改ざん等ができないようプログラムのセキュリティーの確保が講じられていることなどについて国土交通大臣の認定を行うことが必要であるとして、大臣認定の制度の見直しを図る点でございます。

 第三番目の点は、建築の施工段階における中間検査の義務づけと検査の厳格化です。 施工途中での工事状況等を検査して、建築確認図書との照合を厳格に行い、鉄筋量の配筋不足などの不審な事項を見つけた場合に構造計算書の点検を義務づけるなど、検査を厳正に行わせるため検査基準に 法令上における明確な位置づけを与えるとする点です。


建築分科会からの中間報告に対しまして、提出されております政府の案では

第一番目の点としては、建築物の設計段階での審査の厳格化が挙げられております。 高度な構造計算を必要とする建築物の 高さ等の規模が一定以上の建築物 については、構造計算が適切であるかの判定を義務づけております。  この場合、大臣認定プログラムを用いた建築物については、建築確認申請時に入力データを提出させて、指定される判定機関において、機関に属する判定員が入力方法等を審査の上、再入力、再計算を行います。 大臣認定プログラムを用いない建築物については、判定機関において判定員が計算方法、計算過程について詳細な審査を行うこととなっております。


 第二番目の点として、構造計算に用いられる電算プログラムの大臣認定制度見直しであります。 構造計算に用いられる電算プログラムについて、構造方法等の認定を定めております建築基準法第六十八条の二十六に基づき、大臣認定の制度を見直すこととしております。

 第三番目の点としては、工事途中段階での中間検査の義務化であります。 今回の改正によって、国土交通大臣は、確認検査、構造計算の適合性判定並びに中間検査及び完了検査の公正かつ的確な実施を確保するため、これらの事項についての指針を定めることとなっております。 このように、今回の政府の法律案は、社会資本整備審議会建築分科会より提出された中間報告に対応したものであります

 最後になりますが、本法律案の改正によりまして、一日も早く国民が安心して住宅の取得や建築物の利用ができるよう、安全、安心の社会を実現するため、委員皆様方の議論を通じて再発防止策を講じていただきたく存じます。 以上でございます。


         参考人 宮本忠長さんの意見

林委員長 ありがとうございました。 次に、宮本参考人にお願いいたします。

宮本参考人 社団法人日本建築士会連合会の会長をしております宮本忠長と申します。 初めに、このたびの耐震強度偽装事件に対する私の認識を述べさせていただきます。 本来、建築の安全性を確保し、国民の生命財産を守るべき立場の建築士が、みずからの責任を放棄して基準に満たない建築物を設計したことは、建築士の職能倫理が欠如していたことは明らかです。私ども、大変残念に思っております。また、反省もしております。

 元請設計事務所下請建築構造事務所に発注した構造計算書について適切な指導やチェックをすることができず偽造を見逃してしまったことは、重大な問題だと思っております。また、建築確認検査機関が構造計算書の偽造を発見できなかったことも重大なことと思います。 


日本では、建築設計者に対しまして、建築士法で一級、二級及び木造建築士の国家資格を定め、建築の設計と工事監理を行う者に業務独占が与えられています。 以下、全国47建築士会を会員としまして、現在11万人建築士を構成員とする建築士会連合会を代表して、主に 建築士制度 をいかに見直すべきか について意見を述べさせていただきたいと思います。 現行建築士法についての建築士会連合会の見解と 問題点を申し上げたいと思います。

 現行の建築士法は、日本の建築生産の現状、包括的な建築技術者教育を含め、いわゆるアーキテクトエンジニア一体となった建築技術者の基礎的資格法 として、その枠組みは国際的議論にも十分たえられるものです。すなわち、教育、実務訓練、試験、免許、登録、資質の維持向上といった基本システムはしっかりしていると思います。

 しかしながら、これらを具体的に支えている運用に問題があったのではないかと思います。その結果、現行の建築士法は十分に機能してきたとは言えないのではないかと思います。具体的には、建築士の業務領域の拡大専門分化への対応、管理建築士の要件などが問題になると思います。

 建築士の現状につきましては、現在、建築士名簿に登録されている建築士は、平成17年9月30日現在1,016,000名を超えていますが、その正確な実態、例えば建築士の生死、生きている人とか死んでいる人とか、あるいは一級、二級、木造の資格が重複している人、あるいは居住地等の変更などは把握できない状態であります。 現に活動している建築士の数は、推測60万人程度と思います。しかも、設計、工事監理を行っている建築士は全体の有資格者の三割程度でしかありません。

残りの七割の建築士は、建築士法第二十一条の「建築工事契約に関する事務」、「建築工事の指導監督」、あるいは「建築物に関する調査又は鑑定及び建築に関する法令又は条例に基づく手続の代理等の業務」などのその他業務を行っているのが実態です。これらの建築士は、建築生産関連業務全般の中で重要な役割を果たしてきました。


 建築士会の現状につきましては、建築士会は47都道府県に設置されております。会員総数は約11万人で、建築士全体の、実は二割程度しかありません。 建築士会は、平成15年度より、多様化している建築士の業務の実態に即しまして建築士の職業の分類を行い、それぞれの職能の責務を果たす制度を既に実施しております。この制度は、一つは、建築士の技術知識維持向上のための継続能力開発CPD)制度と呼んでいますが、もう一つは、建築士の専門領域を市民や社会に表示するための専攻建築士制度から成っております。 専攻建築士制度は、建築士という資格をベースに、その上に設計構造環境設備まちづくり生産棟梁法令教育研究八領域に専門分化した建築士を業務実績と能力の評価に基づいて認定し、かつ、年ごとに登録更新するものであります。 建築士法の改正に関しまして、幾つかの事項について御意見を申し上げたいと思います。


 建築士の使命、職責、義務。これは

第一に、建築士の使命、職責、義務に関することですが、名義貸しなどの禁止と罰則の強化は、実効性を高める行政の体制を構築することを前提に行っていただきたいと思います。そのためには、違反者の摘発など顔の見える地方自治体と国との連携が必要であると考えています。 また、職責につきましては、近年は、建築物の質の向上だけでなく、安心、安全で、かつ良好なまちづくりも大事になってきておりますので、建築士の重要な役割であると認識しております。

 第二に、建築士の建築士会への加入義務化についてですが、現に建築生産にかかわる仕事をしている建築士については、当然、加入することが必要であると考えています。全国47都道府県建築士会は、資質が高く市民に信頼される建築士が会員となり、ふえていくことを希望し、またそのようにしたいと思っております。 しかし、加入義務化を実現するためには、実は幾つかの困難な課題があると思います。 まず、現状100万を超える建築士の実態がわからないことから、そもそもすべての建築士を強制加入させるということは不可能に近いのではないかと思います。また、さきに述べましたように、建築士の業務は拡大し多様化しておりますので、既存の関係建築技術者団体との調整が必要ですし、建築士会自体も事務局体制の拡充強化をしなければいけないのではないかと思います。 このような課題につきまして解決の道をつけるには、国土交通大臣の諮問機関であります社会資本整備審議会を初め、関係の機関でも十分に時間をかけて議論していただきたいと存じます。
 

建築士事務所のあり方についてでありますが、建築士法人の開設者を建築士に限るということは、建築士事務所も経済活動の一部であることから、営業の自由の観点からも問題があると思います。

 また、建築士法人の社員に無限責任を負わせることも大きな問題です。建築の瑕疵の多くは、竣工後数年を経て顕在化し、設計者と施工者の責任が複合化している場合が多く、建築士のみに無限責任を負わせることは不合理であると考えます。

 さらに、消費者保護の観点からすれば、建物の売り手と買い手の売買契約で歯どめをかけるのが第一義であり、建築士のみに過度な責任を負わせるのはいかがなものかと思います。


 現行建築士法では、建築士事務所の開設者が管理建築士でない場合を想定して、事務所の技術的総括者として管理建築士を位置づけています。しかしながら、現在は、建築士免許を取得すればだれでもすぐに建築士事務所を開設できることになっており、管理建築士の要件を強化することが必要であります。例えば、資格取得後、一定期間の実務経験実績に基づいて認定している建築士会の設計専攻建築士や、APECアーキテクトあるいはAPECエンジニア、そういったレベルの者であるべきと考えています。


 建築基準法の改正につきましては、設計、工事監理と施工を分離すること、すべての建築物について中間検査を義務づけること及び建物完成二年後検査を実施することなどにつきまして提案されておりますが、時間の関係で詳しくちょっと意見を申し述べることができませんでした。この後の質疑で対応させていただきたいと思います。 以上でございます。


      参考人 小倉善明さんの意見 

○林委員長 ありがとうございました。 次に、小倉参考人にお願いいたします。

小倉参考人 日本建築家協会の会長の小倉でございます。 日本建築家協会は、建築家という名前がついているとおり、明治維新から西欧社会から我が国に導入されました建築家の存在あるいは役割を日本の社会の中に定着させて、建築の質を高めということ、それによって国民のための建築環境の向上を目指して取り組んできておる団体でございまして、今現在は、建築士法の抜本的改正によりまして建築家の役割を果たす資格、必ずしも建築家という名前をつけなくても結構ですが、建築家の役割を果たす資格を確立したいという運動をしているところでございまして、この資格制度につきましては、積極的に、日本建築学会、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会、建築業協会等とさまざまな場で意見交換を行ってまいりました。 特に、建築設計資格制度調査会がこの資格についての議論をしておりまして、この制度の検討をしている最中に今回の事件が発生したわけでございます。この発生する前に既に検討しておりました専門別資格制度を骨子とする建築士法改正というのが、今回の事件を二度と起こさないようにするために不可欠なものであるというふうに考えています。


 今回の改正案を拝見しまして、幾つかの気になる点、賛成する点、ございます。その中で特に気になる点が数点ございますが、一つは、建築確認検査厳格化の問題でございます これは厳格化の問題と違うのですが、

民間検査機関による建築確認業務の問題が集団規定の検査の点であると思います。 個別規定に関しましては、構造等の問題でございますから建物固有の問題でございますけれども、 現在、我が国は、町の景観は町に住む住民の財産であって、景観法によれば、景観は国民の財産である、私権を制限しても景観を守るということをうたっておりまして、この景観に関する、すなわち、建物の形状色彩等をチェックする、その集団規定をチェックするには民間では無理ではないかというふうに私どもは考えていますので、集団規定に関しましては、ぜひ特定行政庁でのチェックをしていただくようにならないかというふうに思っております。
 
それから、建築士の責任、職務でございますが、罰則強化に関しましては全面的に賛成でございまして、これまでも、なぜ罰則がそれほど低いのであったかということを考えておりました。2年から5年に、免許を受けることができない期間がありますけれども、私は、ひどい人には原則永久取り消しであってもよいのではないかというふうに思います。

 さて、姉歯元建築士の行為は、職業倫理の欠如によるものであるというふうに考えます。建築士法には、この建築士の使命あるいは職責に関する規定追加するべきではないか。今、二十一条には、「建築士は、建築士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」とございますが、姉歯元建築士の行為は、品位というものではなくて職業倫理の欠如でございますから、品位というような言葉よりは職業倫理というような表現の方がよろしいのではないかというふうに考えています。

 士法改正の最大のポイントは、先ほどお話しいたしましたように、専門別資格制度の導入であります。 外国のメディアに対しては、姉歯一級建築士は姉歯ファーストクラスアーキテクトというふうに紹介されております。これは本来、姉歯ストラクチュアルエンジニアというふうに伝わらなければいけなかったわけですが、建築士が建築家と訳されているところに問題がございまして、これは外国人のみならず消費者にとっても、建築士とはどのような役割と責任を持っているのかがわからなくなる一つの原因でございます。

 それから、設計監理に関して結果として消費者が理解できない、適切な設計依頼ができない、それから、建築士本人も役割と責任について意識が低下しているというさまざまな事例がございます。 したがいまして、消費者保護の立場からこれは非常に不適切でありまして、現在、国際的にも、APECアーキテクトAPECエンジニアという資格をつくっている折でもございますから、アーキテクトエンジニア、すなわち、建築家の役割を果たす建築士と構造設備のエンジニアリングをつかさどる建築士の資格が分かれるのが通常であるというふうに考えております。


 いただきました資料を拝見しましたところ、いろいろな団体の、十に及ぶ団体の要望書がございましたが、我々の日本建築家協会の建築士法改正に向けての提言がなかったために、きょう、一枚の紙をお手元に配らせていただきました。 そこの最初のところに書いてございますように、設計技術、これは、昭和25年にできたときには設備あるいは構造も、超高層もございません、いろいろな技術がまだまだ現在のようには特化していないときにつくられた資格でございますので、これは統括をする 建築士、統括というのは、例えば、基本設計を策定するとか、建築の質を定めるとか、構造設備のグレードを決める、予算のバランスをとる、発注者との契約をまとめる等々、総合的なマネジメントをする資格のもとで構造及び設備の専門家がチームをつくって建築というものはできるものでございますので、それに沿った資格にぜひしていただきたいと思います。 以上でございます。(拍手)


      参考人 日置雅彦さんの意見 

○林委員長 ありがとうございました。
 次に、日置参考人にお願いいたします。

日置参考人 弁護士の日置です。 私は、弁護士になって25年になりますが、近隣紛争に多くかかわってきました。それから、建築関係の人の知り合いもふえたことから、いわゆる欠陥住宅問題に関しては、施主側工務店側建築士側、さまざまな立場でかかわってきました。いろいろな、党派を超えた議員さんや秘書の方から近隣紛争等の相談を持ち込まれることもございます。 本日は、これらの事件を手がけた立場、経験から、建築基準法を初めとする日本の建築の問題を述べさせていただきたいと思います。

 まず、今回、建築士という資格者が不正行為を行っております。有資格の専門家が故意に不正行為をした場合、それを防止することは極めて困難だ、このことは認識する必要があろうかと思います。そして、この背景として、建築業界に、このような違法な行為につながる規制を軽視する風潮、それから確認さえとれれば何をしてもいいんだという風潮、それが長年にわたり形成されてきた、このことを指摘する必要があろうかというふうに思います。


 今回の問題の背景として、極めて公共性が強い、長期的視点から対応すべき都市計画あるいは建築という問題、これを、経済に対する規制の問題からのみとらえ、規制緩和、民営化、自由競争、そういう流れに安易に乗せてきた政策の存在を指摘すべきであるというふうに考えます。


 集団規定に関しましては、規制の緩和が次々となされてきました。これまで、自治体のみが確認を担当していたときには、自治体の行政指導といったような形で法律の問題点がある意味カバーされていたわけですが

、これが、民間確認機関と分離されることによって、ある意味問題が表面化したということがあろうかというふうに思います。 これまで国会でも、たびたび、常識から乖離したような建築の出現、いわゆる地下室マンションだとか、一つの建築物、たくさんの建築物をつなげてしまうようなもの、あるいは天空率による斜線制限緩和がもたらした、さまざまな、常識から乖離した建築物というのが議論になっております。

 いろいろな規制が緩和されますと、それをにシミュレーションして、最大限の床面積を持つ建築計画を考え出すようなソフトというのが次々と開発されてきます。

建築家そして建設業界にとっては、これらを活用して最大限の床面積を確保する、そのことが至上命題で、それをやれば、近隣には迷惑はかかるけれども最大限の経済的利益が得られる、そういうのが現状でございます

 このような、社会的には疑義があるとしても、最も利益を生むそういう計画、それをためらいなく選択される、そして、そういう事業者が経済的競争力を持つ。そうなると、良質な計画を検討している事業者あるいは建築士というところが経済的にそちらに引きずられてしまう、そういう状態が形成されてきたというふうに思います。さまざまな問題ある設計手法というのも、業界を代表するような大手ディベロッパーでさえ競って採用しているのが現状です。

 建築業界あるいは建築士の方が社会的な妥当性を考慮していては自由競争に勝てない、そういう状態がある中で、その中で、少し先を行って、法規を無視してでもばれなければいいんだ、確認さえとってしまえばいいんだ、そういう行動をとる者が出現する、これは紙一重ではないかというふうに思います。根本からそこの問題を変えない限り、問題の解消はできないのではないかというふうに思います。

 なお、自由競争に任せておけば、質の悪い設計者や事業者が淘汰されるのではないかという意見もあります。確かに、自動車とか家電のようなものについて言いますと、大量生産されて多くの数のモデルが市場に出回ります。自由競争に任せても市場の評判で淘汰がされるかもしれません。ところが、建築というのは非常に個別性が強いものでございます。性能の検証、特に耐震強度の検証などについては地震が来ない限り判明いたしません。そういったものについて、市場原理によって淘汰がされるということは期待できないのではないかというふうに思います。


 紛争を手がけた経験からいいますと、個人住宅のレベルであれば、現在の建築基準法の基準を厳密に遵守させれば、性能的な面に おいてはかなり問題は生じない形になろうかと思います。 このレベルにおきましては、基準法の定める基準が実際にはなかなか守られていないというところに問題があろうかと思います。中間検査や完了検査が十分ではない、完了検査は実際にはやらなくても通用してしまう、それから、手抜きや不十分な工事であっても発覚しなければそれで通ってしまう、そういったところが放置されています。その意味では、中間検査あるいは完了検査100%行うというようなことになると、この点はかなり改善されるのではないかというふうに思います。


 さて、これらの問題を考えてみますと、やはり最終的には、建築確認という現在の建築基準法の制度、これ自体が本当にいいのかというところに問題の本質はあるのではないかというふうに思います。 幾つか問題点がございますが、

一つは建築確認の対象というのが限定された法令に限られているということでございます。地方分権の時代と言われていますが、まちづくり条例だとか地域の建築物の紛争予防条例等と建築確認というものはリンクしておりません近隣住民あるいは行政がさまざまな問題点があると考えても、基準法の対象法令に含まれていない問題については、確認の対象とならず確認がおりてしまいます。

 それから、基準法の中で非常に細かい数値的規定等は設けられております。ところが、例えば、高さの基準となる地面の定義、あるいは建築物単位で規制が行われているにもかかわらず、建築物が一つかどうかというような根本的なところについて明確な定義がございません

これが、ある意味、民間の確認機関等において極限まで拡大された解釈がなされて、それが通用しているという問題がございます。

 それから、都市計画建築矛盾するかどうかというチェックもなされておりません。


 あわせまして、今、確認という制度上の限界から、その手続に住民参加あるいは情報公開それから事前手続、こういったものがほとんどございません。これが近隣との紛争も引き起こすという問題につながっております。


 ちなみに、建築確認に関する具体的な資料というのは事前に周辺の住民等が入手することができませんし、建築審査会に行っても確実に出されるという保証がございません。訴訟になるとようやく釈明処分によって出すということが可能になりましたが、その段階になると、今度は建物が完成してしまって訴えの利益がなくなるということで、ほとんど確認の内容について公開の場で審査されるという機会が保証されておりません。そういうことで、地域の実情に合わないものであっても確認が出て、どんどん建築が進んでしまうという問題がございます。

 それから、民間の確認というシステムですが、今述べたように、建築というのは非常に公共的な立場、特に集団規定に関しては公共的な視点からのチェックが必要でございます。ところが、民間の確認機関というものは、確認を申請する者からの申請料に依存して経営が成り立っております。申請を拒否するということは、その事案において料金が入らないというだけではなくて、次からの顧客を失うということにつながりかねません。どうしても、顧客である建て主の立場、建設会社の立場に立って、なるべく建てる方向での解釈をするという形になります。

 しかも、特定の自治体だけが確認していた場合と違って、複数の機関が併存して確認を出すことができるとなると、競争原理によって、最も緩やかな解釈を行うそういう確認機関の判断基準が通用してしまうという形の問題に行き着くということで、これがますます問題を悪化させてきたかというふうに思います。

 最近、地方独自の規制を行うという自治体もふえてきました。今度は、それぞれの自治体が独自の規制を行った場合に、たくさん、全国を管轄するような確認機関が適切にそれぞれの地方のルールを判別できるのかというような問題も生じてきます。少なくとも集団規定に関しては、自治体が地域特性に応じた最終判断を行うべきであるというふうに考えます。
 
それから、建築士の制度です。倫理的な問題が追求されていますが、今述べたように、経済的に倫理を追求したような建築士が成り立たない、そういう経済的、

社会的体制のもとでは、建築士に倫理を求めるということはできないというふうに思います

倫理を求めるのであれば、それが成り立つような、建築士が尊重されるようなシステム、それを構築することが必要だというふうに考えます。


 最終的にこういった問題を解決するためには、基本的には、確認という形で最低限の基準さえ満たせば建てられるということではなく、規模に応じて許可制度を導入する、建築士が責任を持って、地域を踏まえ環境を踏まえ いい設計をおこなった場合にはじめて建築がみとめられる、そういう制度にして、建築士が誇りを持って仕事ができる、いい設計を行った事業者が建築を行うことができる、そういった制度にしていくことが必要かというふうに思います。

 今回の法の改正ですが、それ自体は一つのプラス方向が多いと思いますが、基本的には、今言ったような根本的な社会的背景、これを変えていかなければ問題は解決しないというふうに思います。そういう意味では、改革のスタートということで、問題点の改革に当たっていただきたいというふうに思います。


林委員長 ありがとうございました。 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。



林委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。遠藤宣彦君。

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